10月のキノコたち(中旬編)

恐怖のドクキノコ(番外編)

キンダケ(キシメジ)

ラクヨウ(ハナイグチ)

ツチスギタケ

ハエトリシメジ

 

 い先日のことであったが、新潟県のある地方で、ドクキノコによる痛ましい死亡事故が起きてしまった。

旅館の宿泊客が、たまたまロビーにあったものを酒に漬けて食べてしまったことにより起きた事故で、詳細は下に新聞から抜粋したものを載せた。

この一躍有名になった「カエンタケ」

秋田の人ならば、「そんなキノコ、名前の通り"クァエン"(喰えん)だろう」と、オヤジギャグの一発で片づけてしまいそうな名前だが、私は今までそんなキノコの名前を聞いたことがなかったので、すぐに図鑑で調べてみた。

すると、あったあった「カエンタケ」。

写真で見ると、まるでその形状は「クァエン」ではなく、「火炎・火焔」である。火柱があがっているような形と色。名前を聞くのが初めてなら、その形も初めて見るものであった。

しかもそのキノコ、食べられるとも食べられないとも出ていない。いわゆる食ドク不明菌扱いになっている。その本の編集段階では、まだ判別できていなかったのであろう。

この事件が起きる前でも、私自身はこのキノコ、山で見つけても絶対に家に持ち帰って食べようとはしないとは思うが、これがもし漢方薬でとても高価に取り引きされているとか、難病に効くとか知ったら、ちょっと食指が動くかも知れない。

亡くなった方がどのような動機で酒に漬けて食べたのかはわからないが、もしかするとそのような心理的背景があったのかも知れない。

教訓として、大きな図鑑に出ているキノコでも、食ドク不明菌は決して口にするべきではないということを、亡くなった方から教えてもらったような気がする。

 

 

 

三条の3人も中ドク症状

見附市名木野町の旅館「名木野湯」(本間ますみさん経営)で、ロビーに置いてあったドクキノコのカエンタケを食べ二人が中ドクを起こしたが、重体となっていた南蒲中之島町中条甲、農業栗林邦夫さん(58)は五日午後八時半すぎ、循環器不全などで死亡した。このほかの三条市の男性グループ三人も同旅館でカエンタケを食べ、一人が入院していたことが分かり、今回の食中ドクによる患者(死亡を含む)は計五人となった。見附署ではキノコを食べた男性らから事情を聴き、キノコが置かれた経緯などについて調べる。

同部によると、三条市内の自営業の男性グループ三人も栗林さんらと同じように三日午後、旅館のロビーに置かれていたカエンタケを酒に浸して食べた。三人はいずれもおう吐や下痢などの症状があり、食中ドクと分かった。三人のうち五十九歳の男性は同市内の病院に入院、四十七歳の男性は通院して治療、五十六歳の男性は症状はあるが受診していない。

同部は「旅館のロビーに置いてあったカエンタケはこれで全部。外部に持ち出されてはいないようだ」としてこれ以上は患者が増えないものとみている。

99/10/7付け 新潟日報より抜粋

 


老若男女・・

 

 て、話を本題へ。

秋田県地方ではその海岸線のほぼすべてに、砂防林が植えられていることをこれをお読みの他県の方はご存知だろうか。日本海から吹き付ける風を少しでも防ごうと、秋田の先達が遠い昔、莫大な費用と手間をかけて植樹したものである。

最近、私の住む由利本荘地区沿岸では松食い虫被害がひどくなり、以前のような美しさはなくなりつつあるが、それでも延々と国道7号線沿いに林立する松は見事である。

その松林の中にこの時期になると、棒きれを持って、まるで杖をつくかのように林の中をウロウロする人達が出現する。

休日などは家族連れでやってきた小さな子どもから、いかにも体力のなさそうなヨボヨボのお年寄りまで、様々な人達が松林を徘徊するので、一種独特な秋田県沿岸の風物詩である。

ではこの人達、一体何をしているのか。

そう、キノコを探しているのである。

ターゲットは「キンダケ(キダケ)」。正式名「キシメジ」である。

私はこのキノコ、最近はあまり採りに行っていないので、発生状況などについてはイマイチであるが、毎年地元の市場(いちば)には高値で並んでいるので、秋田ではとても人気の高いキノコなのである。(市場で並ぶのにはわけがあって、このキンダケを秋田ではキリタンポ鍋の具としてとても重宝しているからなのだ。)

探し方はとても簡単。先ほど書いたように、まず松の棒きれなどを手にしたら、それで松葉をかき分けていくだけだ。少しでも他よりも高くなっているところがあったら、そこを丹念に掘ってみる。たいていは松ぼっくりがそこにあるのだが、何十カ所と掘っていくと必ずキンダケは見つかる。それを腰につけたコダシにポイポイと放り込んでいく。非常にラッキーな例として、キンダケと思って掘ってみたら、そこには何とマツタケがあったということもあるらしい。従ってマツタケ=赤松林とはいえないのである。(秋田の砂防林は黒松)

キンダケ探しは山に入るわけでもなく、海岸線の林を歩くわけだから、迷う心配もほとんどないし、ましてクマとかドク蛇といった恐ろしい動物もいない。(たまにスズメバチの巣があるのでこれだけは注意。)それだけ人が入りやすいので逆に見つけにくいことは確かだが、キノコ採りの入門編としてこのキンダケ採りは、家族連れでの秋の行楽の一つとしてお勧めである。

 

山のカステラ?

 

林の話を書いたので、ついでにもうひとつ。今度は唐(カラ)松林について。

今の時期、唐松の下には必ずと言っていいほど生えているキノコ、「ラクヨウ」。(ハナイグチ)

キノコとはさすがに木の子というくらい、木を選んで発生してくるものだが、このラクヨウは松は松でも絶対に唐松の下でないと生えない。方言のラクヨウも、唐松の別名の"落葉"から来ているように、その関係はとても深いのである。

私はこのキノコを新規に探すときは、必ず遠くから山を見渡し、唐松が生えているポイントを見つける。そこが現在地からどんなに遠くても、紅葉し始めた秋の山では唐松というものは目立つので、見つけやすい。見つけたらすぐに移動開始である。沢を越え峰を越え、目的の場所へと急ぐ。疲れてなんかいられない。そこに着くまでは。ラクヨウ達の顔を見るまでは休んでなどいられないのだ。そして数十分、時には数時間かけてたどり着いた唐松の林。そこには案の定ラクヨウ達が咲き誇っている。この瞬間がキノコ採りの至福の時なのだ。

このキノコも大量発生する方で、一本見つけたらそれだけということはなく、必ずビニール袋がいっぱいになるありがたいキノコである。ただし、発生時期を見誤り、すべてが腐っていたということもしょっちゅうだが・・・。

雨の日の翌日などに行くと、このキノコは全体がぬめりで輝き、それはとても美しい。傘と茎の色のバランスは、ちょうどカステラのようである。傘は赤茶、茎は見事な黄色。

味も抜群によい。調理法としてイグチ科のキノコの場合、必ず傘裏の管孔と呼ばれるスポンジ部分を取り除くように書かれていることが多いが、私はそのようなことは滅多にしない。別にそれを食べたからといって、ラクヨウやアミタケのようなイグチ科のキノコは当たったりしない。かえって味噌汁の具にすると、その管孔がダシをたっぷりと吸っておいしくなるし、何より取り除いたりしたらカサが減ってしまう。

秋田ではこのキノコをしょうゆで煮て、佃煮のようにして食べることが多い。(他県も同様かも知れない。)ツルツルしてご飯にかけて食べてもとてもおいしいし、酒のつまみにはもってこいである。大根下ろしなんかを添えると、一杯でやめようと思っていた酒が、つい二杯〜三杯となること請け合いだ。

 

 

何かのキノコの本で読んだと思ったが、このハナイグチはある地方で特別な人気があるそうだ。それもうなずける。一度採ったらそれだけいろんな意味で魅了されるキノコであることは間違いない。

 


道端の誘惑

 

 ブの中に黄色く小さなキノコがわんさかと・・・。たくさんあるにはあるが、「どうしよう、これ食べられるのかな・・・」なんて事がキノコ採りには良くあるだろう。そんなとき、たいていはそのままにしておくか、もしくは一、二本採ってみて間近で臭いをかぐか、裂いてみるかなどして、「やっぱやめとこう」ということで落ち着くはずだ。

しかし私の場合は、ちょっと違う。

まず未発見キノコ用の袋に入れ、他のキノコと混じらないようにして大切に家に持ち帰り、その後徹底的に調べる。(別に新種の発見をしようと学者気取りをしているわけではない。ネがイヤしいせいで、ただ単に食べられるかどうかの判別をするだけだが) 運良く食べられるものとわかっても、別の本ではドクと書いてあることもあり、そんな時は大いに迷うこととなる。かつてそんな経験をしたキノコが、「ツチスギタケ」である。

しかもこのキノコのややこしいところは、全く同じ形状でありながら、ややぬめりがあって木に生える、その名も「ヌメリスギダケ」という方は立派に食べられると書いてあることだ。

「ツチスギタケ」はやはりその名のごとく、木ではなく地面から生えてくる。しかも道端などのヤブの中などに生えることが多い。生えると一斉に生えるから、採っても採っても採り尽くせないということがあるくらいだ。私が毎年行く山でもそろそろ大発生する頃だ。

初めてこの「ツチスギタケ」を採ったときは、自宅で調べるにつけ、さすがに恐れをなし、軽い中ドクでも嫌だったのですべて廃棄したものだった。まさか知人達に「このキノコおいしいよぉ、食べてみそ」と言って分け与え、試食してもらうこともできない。「しょうがない、来年また生えたら採ってきて、その時は勇気を出して食べてみようか」、などと思いつつ一年が過ぎた。

そしてそのキノコは翌年も同じ場所に出てきたのであった。しかも一年前よりスケールがグレードアップしている。あっという間にリュック一つ近くなる。しかしこのキノコの良いところは、先に書いたように道端に生えてくるので、すぐ車のトランクに入れることができ、採るのがとても楽なことだ。

そこで私はどうせならと、生えていたものの80%位を採り、車に積んだ。(20%残したのは生命尊重のためというとカッコイイが、また来年も採りたかったので残したと言った方が正解だ(^_^;))))

帰宅後、「このキノコ、食べれるの?」と、ヒジョーにいぶかしがる妻を差し置き、私はそのキノコを洗って、味噌汁にして食べた。

私がなぜこのような無謀な行為に及ぶことができたかというと、手元にある「秋田のきのこ」(畠山陽一氏著・無明舎)では、この「ツチスギタケ」」を立派な食菌として扱っているからだ。私は氏の記述を鵜呑みにしたわけではないが、県内では普通に食べられている現実を信じたので、味噌汁にできたのである。

当然食後、何の変化もなく、あれから数年経った現在もピンピンしている。ドクの潜伏期間が数年に及ぶというドクキノコは聞いたことがないので、やはり「ツチスギタケ」は食菌だったということだろう。大量に採った残りは、漬けキノコにして冬に食べた。

 

ただし、残念なことに、このキノコあまりおいしくない。キノコを食べるときの何よりもの楽しみである、ダシがイマイチ出ないのだ。しかしそれにしたって、目的のキノコが採れず、寂しい思いで帰途に着く途中にこのキノコと出会ったときは、何となく山の神に励まされたような感じになるのである・・・。 (写真 MickR 99/11/3)

 


 

 蝿もいちころの旨さ?

先日、私のこのキノコについての記述を読んで下さった方から、思いがけなく電話を頂いた。10月のキノコ上旬編で書く予定だった「ハエトリシメジ」についての問い合わせだった。

その方は是非その「ハエトリシメジ」を食べてみたいとのことだったが、私のミスで「ハエトリシメジ」は10月上旬にはもう終わってしまうキノコだったらしく、先日山を歩いた時も発見に至らなかった。9月の末に行ったときは確かにあったので、10月編で詳しく書こうと思ったのだった。

9月に採ってきたものはわずか数本であったが、その晩に食べてみたので、その味についてここで紹介したい。

「ハエトリシメジ」は図鑑等に書かれてあるように、味の素の数倍の旨みを持つタンパク質(トリコロミン酸)が含まれているという。またホテイシメジのように、酒と一緒に食べると酒の酔いが回りやすいとも書かれている。実に興味深いキノコではないか。キノコ採りならそう思うはずだ。いや、キノコを食べる方専門の人で、しかも酒好きとあらば、一度食してみたいと思われるかもしれない。

実は私自身がその手の人間である。

一度は酒のつまみとして食べてみたかった。しかし、山で似たようなキノコはよく見かけるものの、やはりこのキノコも、「クサウラベニタケ」「イッポンシメジ」とよく似ているのである。それがネックで今まで採り損ねていたのだ。 ところが実物を採って間近で見るとこの「ハエトリシメジ」は上記2種とは明らかに違うことがわかる。まず傘の形状は、先端がとんがった帽子のようになっているし、茎もうねうねと曲がっていることが多い。この2点を併せて確認できたら、ほぼ間違うことはない。

私も今回は特に自信があったので、すぐに調理した。ダシが出るキノコということで、定番だが味噌汁にしてみる。(私の家では、初めてのキノコを採ってきた場合、まず味噌汁にする事が習慣となっている。)

ダシが出るようによく煮て、さて「いただきまーす」・・・「ふむふむ、ダシは出ているぞ。でも何かが物足りない・・・」それが第一印象である。「これではモタツ(ナラタケ)の方がうまいなぁ・・・」と感じてしまった。あまりにも期待しすぎて、舌にマイナス作用を及ぼしたのだろうか。

それならば酒と一緒に食べた場合はどうなるだろう・・・。今度は新たな期待でモクモクと食べてみた。

私は大の酒好きなので、このキノコが酒を良く回してくれたら家計的にも大助かり。「どんなふうに酔うのかなぁ」などと、麻薬的な期待を持ちつつその効果のほどを待ち続けたが、サッパリとこちらもよくわからない。いつも通りの酔い具合なのだ。これは体質的な違いもあるだろうから、一概には言えないのだが、「ハエトリシメジ」の場合、「ホテイシメジ」ほど酒を早回ししてくれる物質は含まれていないのではないだろうか。

もっともこの時食べた量は、5〜6本程度と少量だったので、ダシも酒の効果もそのせいで分かりづらかったのかもしれない。

よし、今度は「ホテイシメジ」で試してやろう、と秘かににイケない決心をした私であった。

・・が、ここで一言。この私の話に関心を持ち、興味半分で採ったことのない「ハエトリシメジ」で自分も試そうとか、「ホテイシメジ」で酒を飲もうとかしては絶対にイケない。(声を大にして言います) 確実に両者を判別できる人と一緒に採りに行くか、採ってきた後に鑑定してもらうかしないと、後で間違った場合とんでもないことになる。「ハエトリシメジ」にはよく似たきのこで先述のドク2種があるし、「ホテイシメジ」には、非常によく似たドクキノコで、世にも恐ろしい「ドクササコ」というものがある。これらを食べた日には、それは恐ろしい苦痛が待っているのだ。

結論として、キノコを食べるときには神経質なくらい「命根性」を汚くしてもらいたいと思うのである。

 


さて、今回の中旬編はいかがだっただろう。

次回はいよいよ晩秋のキノコの代表、ナメコ、ムキタケなどについて書いてみたい。

10月のキノコ下旬へ
トップへ戻る