元スキー国体入賞選手と

自分の店に、高校生の時からお客としてきてくれている、O.S君という人がいる。彼は、中学・高校・大学と、ずっとスキー選手として活躍し、高校時代はインターハイ入賞、大学時代はインカレ優勝、国体出場(6位入賞)など、輝かしい記録を残してきており、もう少しでワールドカップ〜五輪に出場できるところまで行ったが、本人の希望で、大学卒業と同時に、キッパリとスキー競技から足を洗ってしまった。たぶん実名を挙げると、県内はもとより、全国的にも彼を知っている人は多いはずだ。

そんな彼が、今シーズンから、とある理由でスノーボードを始めることになった。

同じ雪上スポーツでも、スノーボードは彼にとって全く初めてのことなので、私が縁あって彼に基本を教えることになった。

場所はいつもの矢島スキー場で、ナイター。道具は私のお古で間に合わせ、とりあえずスケーティングから、リフトの乗り降りまで進めたら上出来のつもりでやってみた。

まずは、片足スケーティング。初めてこれをやる人のほとんどは、レギュラースタンスならば左より、グーフィースタンスならば右寄りに進んでしまうものだが、彼は一回目からほぼ真っ直ぐに進み、しかも前足(左足)にしっかり加重して進むことができたので、この練習はすぐに切り上げ、リフトに向かう。

リフトの乗り方、これもクリア。

そして降り方。これもスケーティングがしっかりしていたおかげで、一発で降りることができた。(スノーボードを何年やっていても、これだけは苦手という人が多い。)

さて、いよいよゲレンデへ。

ここで初めて両足を一枚の板に固定される。そしてここからスキーとスノーボードの一番の違いが発揮されるわけだ。

まず斜面に立ってからやることはいわゆる、「横滑り」である。(斜面に対して体を正面に向け、両手を大きく広げて、ズルッズルッと少しずつ下っていく練習)

この練習は、スノーボードの特性を知る意味でも、また制御から停止に至るまでの一連の動作を体感する意味でも、最も大事な課題である。この練習を抜きには先には進めないほど、必須課題なのである。

当然彼にもここから始めてもらうことにした。

まず谷方向を臨んでのかかと横滑りから。

よしよし、(゚ー゚)(。_。)、まあまあじゃないか。ちょっと視線が近すぎる嫌いはあるが、全く初めてにしてはうまい方だ・・・などと思いながら見つめていた私。

彼は初めのうちはモモ、ヒザに余裕があり、ぎこちないながらも、しばらくの間は斜面に沿って降りることができた。しかぁし・・何度かしりもちをついて起きあがるのを繰り返しているうち、あっという間に体力が落ちだし、モモとヒザに余裕が無くなり、棒立ちになり始めた。

開始後30分で「足がパンパンです。」と言う彼。ははぁん。右足に力を入れすぎて、くたびれたんだな?と思った私、彼にそこんところを良く聞いてみると、初心者は必ず軸足(レギュラーだと右足)が疲れるのだが、何と彼は左足がパンパンという。

斜滑降をしてみても、やはり左足が疲れるらしい。普通であれば、滑り出すと怖くなり、後に体重が逃げるので、どうしても軸足が疲労するものなのだが、元スキー選手は、何かを体で覚えているのか、積極的に左足加重(前傾姿勢)を繰り返していたのだ。この分だとドリフトターン(後ろ足で板をずらしてターンする技術)ができる日も近いかもしれない。ふとそんなことを思ってしまう彼の姿であった。

開始後40分ほどが過ぎ、本人曰く、もともとスキー現役選手時代から練習嫌い(笑)だったという彼の体力は限界に近づいていた。しばらく立ち上がることもできない状態だ。

ようやく立ち上がって再び横滑り。つま先側もやってみる。しかしやはり彼の思うようには板がズレてくれない。

ゲレンデの中腹、立っては転び、転んでは立つことの繰り返しばかりだった彼の横を、スキーの回転練習をしている少年達が、猛スピードで滑り抜けていく。もと全国チャンプの彼は、一体どんな気持ちでそれを眺めていたのだろう。(^_^;)スキーを履かせれば、山頂から1分もかからずに降りることのできる彼が、スノーボードを履いて、汗水垂らして下まで降りるまで、横滑り開始から40分以上という時間を費やしていた。

結局横滑りは、体力的限界から一度しかできなかったが、私は今回、色んなことを学んだ。


スキーの上級者は、やはりどうしても頭で滑りを考えてしまうところがある。どうしてこうならないんだろう・・何故あそこで止まれないのか・・このような問題を、スキーの感覚で解決しようとしてしまうのだ。まるで医者が自分の病気を治そうとするとき、それまでの自分の知識・経験が治療の邪魔をしているような感じというと、わかってもらえるだろうか。

従って、スノーボードをこれから始める人は、全くスキーを経験したことがない人の方が、上達のスピード面では早いかもしれない。しかし、ある程度滑れるようになってくると、スキー経験者の方がその上半身・下半身の使いこなしを体で覚えている分、非圧雪バーン人混みで荒れたゲレンデ、さらにはコブ斜などでは間違いなく上手に滑れるはずだ。

かく言う私は、どちらにもつかないタイプだったので、人一倍苦労したのだが・・・・(~_~;)


今頃、元国体選手は安比スキー場で彼女と2人、悪戦苦闘の真っ最中だろう。

そう、とある理由とは何とのことはない、彼女が始めたから、自分も・・と言うわけだったのである。(〜_〜;)


理由は何だっていい。ほれ、そこのスキーヤーの方、思い切ってスノーボード始めてみませんか?偏見持ってちゃダメですよ。若者がピョンピョン跳ねるのだけが、スノーボードじゃありませんからね。今流行りのカーヴィングスキー?あんなのよりもスノーボードの方がずっとカーヴィングできますよ!地球の重力を体で感じてみませんか?(00.2.11記)


安比スキー場一泊tour日記(パノラマ写真&ムービーつき)

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