個人学習塾が抱える悩み


I'm so tired......by John Lennon

最近、私は疲れている。

初めて自分の本業についてここで書きたい。


 

は秋田県の片田舎で、中学生のための学習塾を営んでいる。始めてから7年ほど経った。

その塾稼業の方が、年末年始を迎え、いよいよ追い込みの季節に突入し、毎年のこととはいえ、塾生の「志望校と学力の関係」に泣かされる日々が始まりつつある。

 

私は塾という仕事をやり始めてから、塾生が入塾してきた段階で持っている志望校に何としても入れてやりたくて、これまでわずかながらも努力してきたつもりだ。

しかし、最終的にはその希望のランクを落とさねばならなかったことが、これまで何度かある。

 

今年度は塾生がことのほか多く、従ってそのようなかわいそうな生徒達が数名出てしまいそうなのだ。

私の本望からはずれてしまいそうな生徒達・・・

私も辛いが本人、まして保護者の方々はもっと辛いだろう。

しかし・・・・・・である。


 

私は塾の教師病気を治す医者と、同じ立場ではないかと常々思っている。

どういう意味か。

それは、学力も健康も、前もった予防が肝心だと言うことである。

 

学校の授業だけで着実に成績が伸びていく子供は確かにおり、またそれが当然だと思うのだが、

様々な原因により、それだけでは周りから成績的に差を付けられてしまう子供がいることもまた確かなのだ。

私たち塾を営んでいる者のところには、そのような子供が助けを求めてやっくる事になる。


 私の塾では入塾時に何も限定がないので、早い子は一年生の四月に入ってくるし、遅い子では三年の三学期入塾ということもある。

ところが、今まで入ってきた生徒たちをずっと見てきた感じで言えることは、やはりその入塾期が、その後の彼らの命運を大きく左右しているようだということだ。

つまり、土壇場になってから入ってくる子の場合、医者流の診断をすると、体中にガンが蔓延している状態と良く似ているのである。

これが言い過ぎだとすれば、虫歯をずっと放って置いた状態とでも言い直そうか。いずれにせよ、状況は良く似ている。

両者とも、放って置いても事態は好転しないことに変わりない。

学力も同じ事が言えるのだ。


ここにハッキリとした例がある。

 私の塾では年内に何度か実力テストを実施し、その成績結果順に席を並べていて、前列から後列に行くに従って成績がよい者が座ることになっている。

(これはあくまでも個別指導を能率良く進行させるためであって、断固として言っておきたいが、成績的な差別ということでは全くない。)

その結果どのような席順になるかというと、ものの見事に、入塾期が早かった生徒達が後列に並び、また逆に、三年生になってから入塾してきた生徒達は、ほとんどが前よりの席に座ることになるのだ。(もちろん数名の例外はいる。)


後列に座っている彼らのほとんどは一・二年生の時期に入塾してきており、しっかりとした基礎が完成されている。

だからこの追い込みの時期に及んでも、実力の上積みだけが課題で、進路的な心配も少ない。

しかし、基礎学習時の一・二年時に、勉強よりもTVゲーム等に勤しみ、いよいよ困ってから入ってきた子は、今、苦しい思いをしている。


例えば円の面積。これは小学校の必修内容だと思うが、三年生の今の段階でもこれがわからない子が数名いる。

また、驚かれるかもしれないが、算数の九九ができない子もいる。


塾という場所は奇跡が起こる場所ではない。

確かに学校と違って、我々は月謝というものを保護者の方々から頂いている以上、成績を上げていくのが至上なる目的であることに違いはない。

従って、成績がどうしても上がらない子の家からは、月謝を頂きたくない気持ちすらある。

が、二〜三人ならとにかく、十数名、場合によっては数十名の、しかも成績もバラバラな塾生を全部一緒に指導していく中、今から九九等の勉強をしている時間は、正直言って、ないのである。

繰り返して言うが、塾に入ったからそこで奇跡が起こると言うことではないのだ。

ここに塾側と一部の保護者側との理想の相違がある。


ただ、成績が上がるにはやはり(個人差はあるが)、ある程度の期間が必要なのである。

その場その場の定期テストが上がればそれでいいのではない。

(現に、定期テストの成績は抜群でも、業者などの実力テストになるとガクンと落ちてしまう生徒が多い)

最終的には志望校へ入ることが一番肝心なのであって、また高校入学後も周りから脱落することなく、しっかりと授業についていけるだけの

学力を今のうちに養っていくことが、大切なのではなかろうか。

そのためには塾だけでの勉強だけではなく、自ら朝型に生活パターンを切り替えるなどの、

コツコツとした努力を継続するというような、学習意欲が欲しいところである。

一部の成績が上がらない生徒達には、その点の認識がまるっきり欠如している。


また、そのタイプの子には、親・家族との会話が少ないことも特徴的である。

中学生の頃は、勉強よりも大切な様々な情報は、親など家族を通して得ていく時期だと思う。

ところが現実では、学校から帰ればすぐ自分の部屋へ直行して、晩ご飯までずっとゲーム。

食べ終わればちょっとだけ勉強して、またゲーム。

父母と話す時間は、晩ご飯のわずかな時間だけ。

その両親も仕事で疲れていて・・・・


入塾してからなかなか成績の上がらない子から、家庭の話を聞けば、上のような状態であることが多い・・・・。

悲しいことだが秋田の片田舎でもこのようなことが日常的に起きているのだ。

だから、「塾に入っていれば、放って置いても成績は不安ないだろう・・・」

という期待で子供を入塾させ、いざ受験が近づいてきた段階で(その子の成績が依然として上がっていない場合) 保護者の方と面談するとき、私は言葉がうまく出てこなくなってしまう。

ここでも先に述べた理想のギャップが存在するからだ。


私はここで自分の責任回避をしているつもりはない。

もちろん私の力の及ばないところは多数あり、子供達ならびに保護者の方々へ心配もかけまくっている。

しかしその反面、成績アップのために、微力ながら個人個人に対し努力している自負もある。

それでもなかなか成績が上がらず、良い結果を出せない場合に頂く月謝の重み・・・・・・・。

 

 


ここまで書いたことは、個人でやっている学習塾講師の、悩みともつかない、ただの愚痴かもしれないが、

全国には、私と同じ悩みを抱えている塾経営者の諸姉大兄が多数いるのではと思える。


金儲けのために始めたのではなく、あくまで私の先祖の眠る、秋田県東由利町の中学生の成績レベル向上・底上げのために始めた仕事。

まして亡祖父の遺志を継いでやり始めたこの仕事。

その使命感を胸にこの先ずっと頑張っていけば、今の悩みはほんの小さいものと気づくときが来るかもしれない。

そう信じて、大好きな生徒達と目標に向かって臨んでいこうと思う。


最後に、これから我が子を塾に入れさせようとか、または今通っている塾を辞めさせようかと

迷っていらっしゃる保護者の方々へのメッセージ。


お子さんを学習塾に通わせるのであれば、できるだけ早いうちが賢明です。遅くとも二年生になる頃には入っていた方が、成績は明らかに伸びやすいです。またその時期に本人が塾に行きたいと言った場合、それだけで舞い上がらず、何故塾に行きたいのか、ちゃんと理由を確かめて下さい。

「○○君も行ってるから、僕も・・」と言う理由はダメです。その言葉の裏には、友達より遅れをとりたくないという気持ちと同時に、学校が終わってからもその友達と会えるという楽しみが隠れています。「うちで勉強するよりも良いから」と言う理由もダメです。この場合、塾に入るとそこだけでの勉強になってしまい、家庭学習が必ず疎かになります。

では模範解答はというと・・・

「志望校に入るために、家での勉強だけでは足りないし、先生も熱心らしいから」といったものでしょうか。せっかく入っても、塾講師とうまくつき合えなければ、すぐ辞めてしまうことになります。

子供は学校で塾の話題は必ず話しますから、そこの先生の様子ももちろん話し合っているはずです。当然裏表なく、正直に塾のことを話しているでしょうから、それでもその塾に入りたいと言うのであれば、きっと最後まで頑張ることでしょう。とにかく、学習に対する姿勢がどん欲でなければなりません。それは目を見て確かめて下さい。

また、三年生になり部活も終わって、夏休みから塾に入れようと考えるのであれば、その段階で英語と数学だけはしっかりとした基礎ができているか確認することが大事です。一年〜二年時の定期テストの結果がその判断の基準となります。常に70点以上取れていればほぼ基礎はできています。それが達成されていない場合は、英語・数学の専門の塾等に入るべきです。私がやっているような、総合的(入試五教科)な塾だと、他の教科も疎かにできない立場上、どうしても英数だけに、基本を何度も繰り返し勉強するための時間を、割けません。その結果、ある程度の学力に達していなければ、せっかく入塾しても、みんなについていくのが大変になります。

 

もちろん家計的な理由で一、二年時からの入塾が不可能な場合もあるでしょう。そんな場合には、子供と家庭でしかっりとしたコミュニケーションをとり、いろんな情報、常識、物事の仕組みなどを、折に触れて説明してあげて下さい。子供は聞かないふりをしていても、親の言うことは耳のどこかに残っています。くどいくらい話しかけてやって下さい。

そうやって様々なことに興味の目を向けさせることができれば、子供の可能性は膨らみ、また同時に、自然と向学心もついていくと私は信じています。

何事にも「興味を持つ」ということは大切だと思います。

そうやって自分の中でしっかりとした夢や希望をつかみかけ始めた子供達は、少々辛くても、物事を最後まで貫き通そうという、強い意志が育ちます。

かく言う私もそのように育てられた意識がありますし、これから自分の子供もそうして育てていくつもりです。

 

ただ何度も言うように、塾は奇跡を起こすところではありません。目先の成績には捕らわれないで欲しいと思います。すぐに成績が上がらないからといって、むやみに辞めさせたり、他の所に切り替えたりすることは、私は将来、子供の職業観すら左右することになるような気がします。とはいえ、大都会で、周りにたくさんの塾がある場合はその限りではありません。大手の学習塾の渡り歩きは、病院のハシゴと同じ(良い意味で)で、かえって良い結果を生むこともあるかもしれません。(私がここで言っているのは、私のように田舎で細々とやってるような、個人塾を対象としています。つまり、地元としっかりと結びついた地域振興方の塾のことです。)

塾側も、ただお金を頂いているわけではありません。必ずそこにはプロ意識があるはずです。少しでもお子さんのことで不安なことがあったら、塾の先生に相談することもとても大事だと思います。そこで(まずいないと思いますが) 親身になって聞いてくれない先生は、プロとは言えないでしょう。そのような塾には、お子さんを通わせる必要はありません。

私もそう言われないように、日々努力しています。


 

さて今回は、非常にまとまりの悪い文章になってしまった感がある。

言いたいことはまだまだあるのだが、これ以上書いても恥の上塗りになりそうなのでこの辺で終わることにする。

 

今年度も塾生全員の合格を願って。'99 12/11記