退職のあいさつの類句
◆若輩をもかえりみず 若輩をもかえりみず、まことに差し出がましいようではございますが、皆さまのご指名によりまして、わたくしからひとことごあいさつをのべさせていただきます。岡田さんは、当ショッビング大丸の会の専務理事として、設立以来8年もの間、その運営のために努力してこられましたがこの度、健康上の理由で退任されることになりました。 いまでこそ、当ショッピングセンターも客足が定着し、各店舗の経営も順調になり、発展の途上にあり、われわれも一安心というところですが、設立当初は、地方のこんな小都市で、はたして経営がなりたつかどうか、5名の理事が日夜奔走したものですが、中でも岡田さんのご活躍はめざましく、今でも目の前にうかぶようであります。この上は、岡田さんのご健康が一日も早く回復し捲土重来の日をお待ち申しあげるばかりでございます。 ◆平素のご厚誼に対して この度、平山氏が退職されることになりましたので、私どもはここに、ささやかながら歓送の宴を開き、いささか、氏の平素のご厚誼に報いるとともに、氏の第二の人生の安からんことをお祈りする次第でございます。どうぞご健康に留意されて、末長くご健在であられますよう、祈っております。 ◆親しい仲間の退任は心細さを感ずる 私は、川村さんの2年後輩で、入社以来の長い年月を、同じ部内で、氏を私の杖とも柱とも頼り、親しくご交際願っていましたので、親しい仲間として、氏の退任は心細さを感じてなりません。川村氏は業務局長になられて、今年で5年になりますが、その間、氏の公正無私なお人柄と、勝れた政治手腕は、内外ともに高く評価され、多くの人から敬愛されていましたのも、氏の人徳のあらわれでもあろうかと考えます。 氏のような人物を、社から失うということは、まことに大打撃でございますが、こちらの都合ばかりいっているわけにもいかず、まことに残念のいたりでございます。なによりも、今後はおからだに注意され、末長くおつき合いをさせていただきますよう、おねがい申し上げます。 ◆荷物を失う心地 職長として、作業に大きな障害をおこすこともなく、本日まで無事に勤め上げることができましたのも、ひとえに従業員の皆さんのご協力のおかげでございます。 この職場における、私の生涯がいま終わりをつげるに際し、一つ、自分の下げていた荷物を失うような、はなはだ頼りない心地もいたします。若い皆さんには、こういう想いは、おそらくご想像すらもできないと思いますが、やはり長年すみなれた職場を去るのはつらくかなしいものです。 といって、これで私の人生が終わったわけではないのですから、明日からは、社会に少しでも役立つような生き方をしていきたいと思っております。幸い、私のようなものでも、若い者の面倒をみるためにきてくれないか、といってくださる方があり、その方の仕事をするつもりでおります。 ◆面白うてやがて悲しき鵜舟かな 今日をかぎりでこの職場ともお別れです。今の私は、蕉翁の句の「面白うてやがて悲しき鵜舟かな」の心境でございます。これは、鵜が鮎をつかまえても、つかまえても鵜匠にとられてしまうあわれさを詠んだものですが、人の世もこうではないでしょうか。少々こじつけになるかもしれませんが、会社に入った当座は、見るもの、きくもの、すべてがめずらしく、自分もまた仕事を覚えるのに一生懸命だった楽しさ。それがプロサラリーマンになり、自分の思いどおりの仕事ができたときのうれしさ、そういう楽しさ、嬉しさが重なって今日まですごしてまいりました。 そして本日、こうして退職の日を迎えますと、まったく、やがて悲しきの想いでございます。 |