37.再婚者への祝辞

 生き別れのところへ行くとも、死に別れのところへ行くな、ということをよく申します。これは日本人特有

の感傷主義のなせることで、なくなった者には良いところのみ記憶に残って理想化される、ですから先妻が後妻よりよく見えるのですが、これは現実にない理想像をもとにしての比較ですから誤りであることは言うまでもごぎいませんし、こういう比較を考えることが、すでに夫婦愛にはずれることであります。「愛は比較を超越す」私はこのコトバを再出発の新郎、新婦にお贈りして祝詞といたします。

 

38.夫婦げんかの笑話

 土佐は米どころです。ある農家で夫婦げんかの末、女房は実家へ帰ることになり、荷物をまとめて出ようとすると、夕立がはげしく降ってきた。おりから庭にはモミがムシロヘ入れて乾してあります。亭主があわてて取り入れているのを見た女房は、「そっちはモチ米じゃきに、いっしょにしたらいかん」と注意しました。すると亭主は「それほど知っちょったらお前が入れたらええじゃないか」といったところ女房もいっしょになって取入れを終えましたが、夕立を待っている間に仲が直ってしまった。という笑話ですが、全く夫婦ケンカとはこんなものです。

 

39.百害あって利なし

 夫婦げんかは、レクレェーションだ、夫婦和合の術だと申されます。しかし、小生の経験では、百害あって一利なく、どうもやらなくてすむものなら、さけた方がよろしいようです。下品な話ですが、鼻クソと夫婦げんかの種はつきないといいます。それにその気なら、やろうと思えば、いつでもできるし、やっちゃいけないという法律もないし、別に税金もかかりません。

 私は客をあつかう商人ですから、手荒なことはしませんが、畳をたたくくせがあります。ポンポンとやらないとケンカに景気がつかないのです。しかし、このポンポンも新婚当時は家内もびっくりしたらしく効果がありましたが、すぐになれてしまって、私が一ついうと三つ四つに返ってくる。ポンポンは家内の口を封ずる合の手に使うだけで、ききめがない。どこのご家庭でもやっぱりいばっているのは亭主ですから、こんなときになると、家内の方にはやりこめる種がいくらでもあるらしいんです。だんだん追いつめられると、「何いってやんだい唐変木」「あら唐変木のお陰で育ったんだろ」なんて子供あつかいにします。そうなれば勢いで「出て行け」なんていって、飛び出すのは私なんですからおかしい。出れば散財をし、友人のところを回わりますが、気が重いからおもしろくない。

 家内にしたって、「わからずやの亭主のくせに」なんてプンプンしながらするから、襖障子の開けたてに力が入ってビンビン響く、茶わんは落して割る、子どもにはあたる、こんなとき電話でもかかると切り口上でポンポンいう。家内の勢いだってなかなかおさまらないんです。けんかの本人は五分もたっと、何んでこうなっちゃったんだろうと後悔しているんですが、夫婦げんかばかりは遠慮がないから勢づいちゃうんです。 

 子どもだって大きくなった、私たちのけんかをみて、嫁をもち、嫁に行ってから、このとおりにやられたら大変だ、このへんで、やめましょう。けんかがしたくなったらあなたを実のお父さんだ、私を実のおふくろさんだと考えるようにしましょう、ということになりました。そうすると、お互いの言い分に耳をかたむけ、尊重し合うようになりました。

 私たちは十五年もけんかをつづけて、大変な損をし、遠回りをし、ご迷惑をかけましたが、どうかお二人は、今日のむつまじさをいつまでも持ちつづけてください。夫婦げんかは百害あって一利ありません。

 

40.おかめとひよっとこの夫婦げんか

 わたくしは結婚して三十年になります。気の早いわたくしは、生まれつきけんか早いほうで、夫婦げんかについては相当のベテランと心得ています。若いときは、何が何んでも勝つことを考えましたが、妻は早くその呼吸をのみこんで、ある日おかめとひょっとこのお面を買ってまいりました。

 「あなたとわたしは、どうしても夫婦げんかになるようだし、子供も大きくなってきては、怒った手前できる仲なおりもできなくなります。これからの夫婦げんかは、このお面をかむってすることにしましょう」と言います。「おかしくって……」と考えましたが、この奇想天外な妻の発想を思いやると、よくよくに考えでからのこと、妻は私より一枚上だと感心しました。

 二日とたたぬうちに、わたしはひょっとこの面をかぶらされ、向い合ったのですか、二言、三言でふき出

してしまいました。おそらく夫婦げんかなどというものは「そんなことぐらい言わなくてもわかってるだろう」、「わたしの気持はわかっているでしょう」といった双方のあまえや独断から、心の通じないところができ、説明不十分からおこることが多いようです。はたから見れば他愛のないものでしょう。わたくしどもは、お面のお陰で、いくらでもケンカができ、しかもケンカというものを忘れるようになりました。どうぞおためしください。


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