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 再婚する友人の媒酌人のあいさつ

 隆之君、留美子さんおめでとう。

 本日はお忙しいところをおいでいただき、ありがとうございます。

 お招きいたしました方々はごく親しい方々だけにいたしましたが、どちらを向いても皆さんのニコニコした顔ばかりで、あらたまったごあいさつは、はぶかせていただいてもよろしいのでしょうが、それでは媒酌人という役目も用立たず、私の立つ瀬もなくなりますので、簡単にごあいさつさせていただきます。

 ただ今、新郎宮崎隆之君と新婦留美子さんは両家の親戚ご列席のもとに三々九度の杯を固められ、いとも厳粛な面持ちで結婚の儀をとり行ないました。ご両家のみなさんのおよろこびはもとより、隆之君の長男の達夫君、長女の紀子ちゃんはことのほかのよろこびようでございまして、留美子さんのそばをはなれず、雄蝶雌蝶の飛び交うようでございました。

 さて、隆之君は小生の竹馬の良友で、新婦留美子さんは俳句の友でございます。お二人はいつも小生宅で清談をともに楽しんでおりました間柄でございます。小生宅をご利用のお二人が本日の華燭の典の主人公で、お貸し申した小生が媒酌人の大役をおおせつかったというわけで、割りに合わない感じでございます。それはともかく、最近隆之君のイラストレーターとしての感覚がとみにさえて、とくにその色感に豊かさと深みをましてきたことは皆様もご存じのことかと思います。また一方留美子さんの俳句にも情感あふるる佳句が次々に生まれております。

 ご幸福そのものの二人の愛情は、味で申せば五つ目か六つ目のトロずしの味、空腹のときに無我夢中で放り込むすしの味ではありません。舌にトロの甘さがひろがり、わさびがつんときて、心にしみわたる味、人生佳境の味と想像いたします。水しぶきを上げて奔流する愛情と申すより、洋々と岸辺の葦を洗い、大地に滋味を与えて流れる大河のような愛情と申せましょう。しかし、今日ただ今のお二人には、「二人のために世界はあるの」でございまして、小生も感きわまっておる次第でございます。

 隆之君、留美子さん、粗酒粗肴まことにすみません。不自由な席についていただいて恐縮ですが、これより時間の許すかぎり、皆さんの羨望のスピーチをお聞きいただきたいと存じます。皆さんは、この美事なお酒とお料理を召しあがりながらどうぞ腹臓のない、ざっくばらんなお祝いの雄弁をお願いします。

 これをもって、ごあいさつとします。

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