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■登山家の遭難を悼む
今わたくしは、○○△△君のご霊前に立っておりますが、それさえも現実ではあり得ないような錯覚におそわれます。
あなたは、絶対に遭難しない人、遭難してはならない人でした。まったく、あなたのように慎重なクライマーは、いなかったと思います。あなたの登山歴は長く、大学時代は山岳部員としてそして社会へ出てからも、00山岳会へ所属し、昭和○○年一二月には、00山岳会のパーティの一員として北アルプスの三千m級の氷雪の峯々を縦走し、翌年一月には、東尾根から杓子岳を目標にした合宿のサブリーダーとして、厳冬の杓子岳登頂の栄誉をにない、白他ともに00山岳会の第一線メンバーとして認められるようになりました。
そして三月には、南アルプス鋸岳で、A藤、K原、N野の三名の雪崩による遭難が起こるや、君は救援隊の本部員として、最も重要な現地への連絡指示の任にあたり、急を要する数々の事務処理は、まったく他の及ばない活躍をみせ、三名の遭難者を無事救出する蔭の力になってくれました。
年ごとに向上してゆくあなたの攀(とうはん)登技術と山岳家らしい知性はしだいに円熟してゆきました。そういうあなたは、よくデュプレーの詩を明るく口ずさんでいました。「いつかある日、山で死んだら・・・」というその一節は、あなたの山岳家としての自信と心楽しいロマンチシズムにあふれたものでした。そういうあなたが、クライマーとしての高い技量を試みるべく、鹿島槍の荒沢奥壁へいどんだとて、何の不思議がありましょうか。
二月二五日、あなたは単身荒沢奥壁へ向かいました。むろん十分なルートの研究装備に万全を期したことは言うまでもありません。事故は、積雪の中を下山中、突然おこった大雪崩のために、あっという間に危禍にあわれたそうです。遭難のしらせに、一命だけは、と願いましたのも、はかない望みと消え、あなたの遺骨を迎えねばなりませんでした。いちがいに過失というよりは、さけられない偶然とでもいうのでしょうか。しかし私は、あなたの遭難に至るまでの過程を克明に分析し、後進に示そうと思っています。これがあなたへの最善の供養だと思われます。そしてこれから私たちのパーティが、アルプスの稜線をゆくとき、きっとあなたもいっしょだと思います。
誰よりも自然を愛し、山を愛したあなたは、わたくしたちとともに、山とともに、心の中に永久に生きてゆかれることでしょう。○○△△君!安らかにご永眠ください。
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