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■殉職警察官を悼む
元警視総監 田中栄一
本日、ここに故警視庁巡査部長○○△△君の慰霊祭を執り行なわれるに当たり、謹みて同君の霊前に一言申しあげます。君は昭和××年六月二六日、茨城県下に生まれ、長ずるに及び身を国家安逮の礎石として、志を首都警察官に求め、昭和××年五月五日警視庁巡査を拝命、同年六月三〇日優秀なる成績をもって教習課程をおえ、即日警視庁勤務となり、さらに南部区隊を経て、警邏隊として各種犯罪の多発地域を担当する西神田公園巡査派出所詰となりましたが、その精励にして恪勤(かつきん)なる、たちまちのうちに数々の功績を積むに至りました。すなわち、同署着任以来わずか一年余にして、犯人逮捕等による警察賞与を受けること、実に18回の多きに及び、断然他の追随を許さないものがあったのであります。また向学心に燃える君は、激務の余暇よく勉学に努め、自ら大成を期すべく決意の程が深くうかがわれ、上司、同僚の信望も厚く、模範青年警察官として、将来を大きく嘱望されていたのであります。
たまたま七月一二日午前六時ごろ、君は第二当番として前日よりの勤務に疲るる色もなく、警邏に出向、付近を警戒しつつ、西神田大通りを巡行中、自転車にて疾走中の一不審者を発見し、機を失せず直ちに職務質問をなさんとしたところ、やにわに逃走を企てたので、決然として逮捕すべく折から通り合わせた一市民の運転するオート三輪に同乗して急追中、神田神保町二丁目七番地先において、折から進行してきた都電と衝突し重傷を負うに至った。直ちに医師の手厚い処置を受けたが、午前六時三〇分、前途なお春秋に富む身をあたらついに殉職せらるるに至ったことは、まことに痛惜哀悼の情禁じえないものがあります。
しかれども、進んで身を治安維持の第一線におき、その崇高なる任務に倒れたるは、警察官の本懐というべく、男子として悔なき一生と言わねばなりません。本日ここに告別の式を執り行なわるるに当たり、在りし日の君を偲ぶる情せつなるものあり、一同とともに霊前に頓首し、謹んで君のご冥福をお祈り申し上げる次第であります。蕪辞(ぶじ)ながら私の弔辞といたします。
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