◆ 落選した候補者のあいさつ
本日は私のために、かくも多数のお集まりをいただき、まことにありがとうございました。残念ながら、この度の選挙戦では一敗地にまみれ、ただいまも皆さま方のあたたかい励ましのお言葉を承り、ご厚意が身にしみてねります。
江戸末期の儒者で、博学多才の誉れの高かった安積艮斎(あさかごんさいは、若いころ両親のいいつけで、郷里陸奥の某家へ婿入りしたことがありました。ところが、彼は生まれつき片方の目しか見えずで、おでこで、色の黒いブ男であったため妻が極度に彼を冷遇するので、たのしむことがありませんでした。
ある日、ついにその虐待に発奮し、妻と別れて養家を去り、江戸へ出て佐藤一斎の学僕となって、日夜、刻苦勉励し、儒者として大成し、天下に名をなすことができました。その後、艮斎の家の床の間には、いつも一幅の婦人の肖像画がかけてあるので、ある人がふしぎに思い、「いつもあの肖像祈がかかっていますがあれはいったいどなたですか」とたずねました。
すると艮斎は、「あれは、昔別れた妻の像です。もし当時、彼女がわたしを冷遇しなかったら、私はあのまま一生いなかに埋もれてしまっていたでしょう。わたしがこうして今日あるのはみんな彼女のおかげであり、その恩を忘れないために、こうして肖像画をかけておいて、日々発奮しているのです」と答えたということです。
このように、ものごとはすべて、こちらの受けとり方ひとつで生きも死にもするのだと思われます。今回の落選という事実も、私にとっては、次の機会に当選ということに結びつかなくては、なにもならないのだと思われます。たしかに今回の落選は、私にとりましては、耐えがたいことでありますが、これも未経験な私の浅慮をいましめるための天の啓示と思い、今後は次の機会を期して、日夜、はげみたいと思っております。
長い選挙戦の間、ほんとうに皆さまご苦労さまでした。心から御礼申し上けます。