駆け抜けた天使 仙台市にあるT福祉大学で、身体に障害を持つ子供達のための運動会が開かれた。
これは毎年学生達が主催して行われているもので、いかにも福祉大学らしい催し物である。
昨年のこと、その運動会に他の子供達よりも重い障害を持つ一人の少年が出ることになった。
彼は心臓に先天的な疾患があり、無理な運動はもとより、ふだんの生活すらままならないほどの、それは大変な病気だったという。
しかし彼はその運動会に出てみたかった。周りの友だちが一生懸命がんばる姿を、いつも彼は応援席から眺めているだけだったからだ。
担当医は当然反対した。彼を走らせることによって起こる結果は、火を見るより明らかだったのである。しかし、少年の両親は、泣いてせがむ彼の意志をなんとかしてくみ取ってやりたかった。
必死に医者にお願いする両親・・・「どうか一度だけ、走らせてやってください・・・」両親の熱意にうたれた医師は、自分がその場に同席することと、決して無理な走り方はしないということで、ようやく承知した。
いよいよ運動会の日。彼は50m走にエントリーした。
スタートラインに立つ。自分の胸が、その病気さえ忘れるくらいに高鳴っているのがわかる。
そして彼の視線の先には夢見ていた白いゴールのテープが・・
スタートのピストルが鳴る。「よおーい、パーン!」
少年は走り出した!夢中で走る!走る、走る!
周りの子には置いていかれるが、そんなことは少年にとってどうでも良かった。
今自分がこうしてみんなと一緒に走っていることだけで、彼は十分幸せだったのだ。その様子を息を飲んで見守る両親。また少年の事情をわかって、一生懸命応援する学生達。
「がんばれー!もう少しだ!!」応援席から誰彼と無くかかる暖かい声援。
みんなが拍手、両手を振って少年を応援する。
少年は走った。最後まで走った。そして、よろよろになりながらも、ゴールラインを突き抜けた・・・その瞬間、全力を出し尽くした彼は、倒れ込んでしまった・・・。
緊張した面もちの担当医が、急いで駆け寄る。すぐに脈を取り、酸素マスクを彼に取り付けるが・・・・、少年が再び息をすることはなかった・・・。
その場で泣き崩れる両親。応援していた学生達も涙ぐんで見守るしかなかった。
しかし少年の顔は、一生懸命走ることができた満足感からか、うっすらと笑みをたたえていたという・・・。
・・・後日、その少年が一生懸命走る姿の写真ができあがってきた。
学生のひとりが、がんばる少年をカメラに納めて、あとで本人に記念として渡すつもりだったのである。しかしその写真はそのまま彼の遺影となってしまった。
そこに写っていた彼の表情は、苦しいはずなのに、なんとも幸せそうな顔・・。
そして少年の後で応援しているたくさんの人達・・・・・。
しかし、その写真をよく見た学生は腰をぬかさんばかりに驚いた。。
?!
なんと、少年を応援している何十人もの人の手は、
すべて少年に対して手を合わせて(合掌)していたのであった・・・!まるで少年の死を悼んでいるかのように・・・・。
(写真と内容は関係ありません)