助手席の男

 

これは私の知人の女性から聞いた話である。

彼女は、前日に降った雪が辺り一面を美しい雪景色に変えていた冬のある日、気の合う友人達と連れだってドライブに出かけた。それは特に目的地もない、ブラリとしたものだった。・・・


出発してから数時間後、仲間達を乗せた車が、あるトンネルの前にさしかかった時だった。

それまでみんなでワイワイとにぎやかに騒いでいたのだが、突然助手席に乗っていた一人が、何かに取り憑かれたかのように、車の窓を開け始めたのである。

外から猛烈な寒風が車内に入り込んでくる。全員その外気の冷たさと同時に、仲間の異常な行動に身が凍った。


「おい!何をするんだ!気は確かか!!」仲間の一人が叫んだ。しかしその取り憑かれたような男には、全然その声が聞こえない。そして車は窓を開けたままトンネルに入ってしまった。さらにその助手席の男は、いきなり自らの体を車外に乗り出そうとしたのである!!仲間達はもはや彼の異常行動を黙って見守るしか手だてがなかった。



 やがてトンネルを過ぎ、彼は落ち着きを取り戻したのか、おもむろに窓を閉めた。車内にようやくヒーターの熱が戻ってきた。

 実は仲間達は、そのトンネルが有名な"ゴーストスポット"だと知っていた。かつてそのトンネル内で悲惨な事故があり、その際に亡くなった子供の叫び声を、そこを通る多くのドライバー達が聞いていたのだ。
 
だからそのトンネルが近づいてきたのと同時に、気をそらそうとして騒いでいたのである。しかしそんなコワいウワサを、助手席の男ただ一人が知らなかった。まして彼は、普段からそのような怪談じみた話を全く信じていなかった。したがって、仲間達はそんな彼の異常行動により、いっそう恐怖感をあおられる結果になったのである。


仲間の一人が、ようやく落ち着きを取り戻した彼に、おそるおそる聞いた。

「どうしたんだ、さっきは。いきなり窓を開けて、何か変な声でも聞こえたのか?」

助手席の彼の表情は、どこかうつろな眼差し、そしてニヤニヤしている・・。仲間達の間に再び恐怖心が走った。

「もしかして、本当に何かに取り憑かれたのか!?」
誰しもがそう思った瞬間、彼は薄ら笑いしながら、その上気した唇を開いた。全員が固唾をのんで、彼の言葉を待った。次の瞬間、車内で、恐るべき彼の行動についての全貌が明らかになったのである・・・・!!


「トンネルに入る直前、看板があっんだ。その看板にはこう書いてあったよ、『このトンネルではラジオが聞こえます』って。だから俺は窓を開けて、本当に聞こえるのかどうか、確かめてみたんだよ。でもおかしいな、何も聞こえなかったよ。何?寒かった?ワルイ、ワルイ、ハハハハ!・・。
ところでみんな青い顔して、どうしたの?(^。^)」



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((そう、彼はトンネル入り口の看板の案内を、"トンネル内にもかかわらず、車中でラジオが聞くことができる"という意味にとらず、"トンネルの中でラジオが鳴っている"ものと、間違った解釈をしていたのだった。))


車内の一同が、別の意味で凍り付いてしまったということは、言うまでもない・・・・。

 

みなさんも、トンネルの入り口でこのような看板を見かけたら、彼のように、同乗者に変な行動に出る者がいないかどうか、よく確認した方がいいですね。(^_^;)