99%の自信と1%の恐怖 9月30日、いつもの山にてバカマツタケを探していたら、同じ雑木林内にて見事なネズミ色のキノコの林立を目にする。そのキノコは、柄がとても固くそして太く、傘も肉厚でしっかりしており、開いたサイズもこれまたでかい。最大の物で、柄の太さ4センチ、傘の直径が20センチもあるではないか。
一目見た瞬間、私はこのキノコを図鑑で何度も目にしている"ウラベニホテイシメジ"だな、と思った。
このキノコは以前も山中で出会ったことがあるが、その時は判別に少し自信がなく、採らずにそのままにしておいた。(山ではよく毒キノコと思われる物が足蹴にされているのを見かけるが、自分勝手な判断でキノコを粗末にする行為は厳に慎むべきである。生命尊重の立場上からの理由、またそのキノコが実は食菌で、それを採るために来る人がいるかもしれないという理由からしても)
採るか採らないか迷うのは、そのキノコがあまりにも大きくて気持ち悪いことと、収量があるので、持ち歩くにのかさばるなどの理由からだが、最も大きな理由は、このキノコの兄弟分に、"イッポンシメジ"と、"クサウラベニタケ"という超有名な?毒キノコがあるからである。種別上もこれらのキノコはごく近く、また見た目も酷似する部分が多いのである。また、日本全国で見ても、両毒キノコでの中毒例が最も多い。つい最近でも秋田県内で中毒の報告があったばかりである。
私もこのたびこの疑わしいデカキノコに出くわしたとき、再び採るかそのままにしておくか迷ったが、目的のキノコがほとんど採れなかったこともあり、思い切ってそれらを全部採り、家に持ち帰った。それだけでビニール袋が満杯になった。
さて、いざ家で鑑定。
図鑑3冊で何度も調べ、それこそ食い入るように見ることしばし。しかしそれでもやはり決定的な確信を得るに至らず(残念ながら図鑑の写真は、実物とだいぶ異なることが多い。)インターネット上でキノコに関するHomePageを検索し、その中からこの"ウラベニホテイシメジ"の判別について記述してある物を見つけた。そこでは非常に詳しくその方法を書いてあったが、中でも「本菌の柄の基部をかじってみると、苦みが感じられる・・・」というような内容に関心を持ち、早速試してみる。(なんでもそのような苦みは、似た毒キノコ二種にはない特徴だということで、これでほぼ判別できるとあった。)
私はすぐに生のまま柄の元をかじってみた。すると確かにわずかな苦みがある。しかし自分だけでは不安だったので、妻にも試してもらい、その結果、やはり苦みを感じたというので、私の確信は99.9%へ。
こうなればもう調理して、いざ食してみるしかない。その結果美味で、しかも体に異変もなければ、今度からまたターゲットが一つ増えるからである。
本菌全体にあると思われる苦みを消すために、ゆでこぼした物をさらに煮て、妻が吸い物を作ってくれた。いざ、「いただきます」。ワクワク・ドキドキしながら口へ運ぶ。そして口の中で広がった味は・・・・・
何ともニガい。シブいとニガいの中間といった感じだ。これでは吸い物には合わない。塩蔵して冬に食べることに決定。
どんな毒キノコでも、食後15分くらいで初期症状が現れ始め、その段階で自ら嘔吐し、胃を空にすることでその後の症状の善し悪しが決まるという。私も15分〜30分ほどは気が気でなかった。いくら99.9%の自信があるとはいえ、毒キノコの中毒症状は恐ろしい。脳裏にその恐怖がよぎる。
5分、10分と次第に時間が過ぎ、緊張も同時に増していったが、幸い食後一時間たっても変化は現れず、やはり食べたキノコは"ウラベニホテイシメジ"だったと、確信するに至った。
食後数日してから猛烈な症状が現れるという"ドクササコ"という恐ろしいキノコもあるが、そのような種類は彼一種類だけであるし、食後12時間すぎた今も何ともないので、食べた物は"ウラベニホテイシメジ"に間違いないだろう。
これだけおっかなびっくりして食べた"ウラベニホテイシメジ"だが、その苦さにはガッカリであった。塩に漬けることで果たしてその苦みは消え去るのか、それは正月までわからないが、今度山で出会ったら、採るべきか採らざるべきか、かえって迷ってしまう結果になってしまったことは、まことに皮肉である。
(参考文献/写真・無明舎出版/畠山陽一氏著/秋田のきのこ)